#2


1年前、

3月のある朝、いつも通り政子はキッチンに立ち、慣れた手つきで卵を割りながらフライパンに投入した。


朝食の準備は、毎日のルーティンであり、家族が目を覚ます前のひとときだった。



朝食が揃ったテーブル。

富善(とみよし)はいつも通り新聞を読みながら政子の作った出汁巻き卵を無言で食べる。


長男の空(そら)がバタバタと階段を駆け下りてきた。


「今日って卵焼き?」

と、まだ寝ぼけ眼で尋ねる。


「そうよ、早く顔を洗っておいで」

と政子が言う。


「おい空、今日は遅れんなよ」

と、富善が空に向かって注意するが、


「大丈夫、大学なんて余裕だよ」

と空は軽く返す。


これもいつもの朝のルーティンである。



そんなやり取りを横目に、政子は朝食の片付けを始める。

いつもの朝、いつもの風景。


家族を送り出し、静まり返ったキッチンで、政子はいつも通り外を眺めた。


しかし、何かが少しずつ変わり始める朝だった。



いつものように朝の情報ワイド番組に目をやると、そこに映し出されていたのは、競馬の引退馬関連の特集だった。


その中で紹介されたのは「ソフト競馬Jpn」という乗馬競技だった。


政子はテレビ画面に釘付けになった。



映し出されたのは、勝負服をまとった老若男女が、馬を引いたり乗ったりしながら、笑顔で競技に参加する姿だった。


ポニーから重種馬まで、幅広い種類の馬たちが参加しており、和やかな雰囲気が画面越しにも伝わってきた。



政子は子供の頃から動物が好きで、父親に連れていかれた競馬場で馬の魅力を知り、ギャンブルとしてではなく、スポーツとしての競馬が好きだった。


政子が中学生時代に話題になった女性騎手に憧れを抱いた時もあった。



ふと、10年前の初めての乗馬体験の記憶が鮮明に蘇る。



インストラクターが引き馬をしてくれて、その馬上に跨っていただけだったが、

あの時感じた馬の温もりや、風を切る感覚が彼女の胸に再び火を灯した。



そうだ、馬の名前は、、、たしか、「ウイニー」だった、、と思う。


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#1

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