翌朝、
朝の静けさの中、政子はいつものようにキッチンで朝食の準備をしていた。
昨日の夫との衝突がまだ頭の片隅に残っていたが、それを振り払おうと気持ちを切り替えようとしていた。
政子と富善はお互い特に会話も無いままだった。
富善はいつもより早く朝食を終え、いつもより30分ほど早く家を出て行った。
その直後、
空がいつものように寝ぼけた顔で、階段をゆっくりと降りてきた。
政子の方を少し見てテーブルに座り、
小さな声で「いただきます」と言って、用意してあったパンに手を伸ばす。
政子は食器を洗いながら、ちらりと空の様子を伺う。
昨日のやり取りは、空の部屋まで聞こえていただろうという事は想像が出来ていた。
空もパンを一口食べながら、ちらりと政子の様子を伺った。
少し間を置いた後、テレビの方に目をやりながら
「母さんのやりたいようにやんなよ。」
と、また小さな声で言った。
彼の言葉にはいつものクールな響きがあったが、その裏に優しさが感じられた。
そんな空の言葉に政子は少し焦ったが、
その焦りを隠しながら
「あぁ、ありがとう。
大学、間に合うの?」
と空の方を見て言った。
空は
「大学なんて余裕だよ。
父さんにはさ、
俺からも何とか言っておくからさ。」
と、相変わらずパンをほおばりながらテレビを見たまま答えた。
「あんた!
いつからそんなに逞しくなったの?!」
政子は嬉しくなって、少しにやけて尋ねた。
空の援護はあったものの、あんまりすっきりしないまま、
政子の夢の入り口、乗馬クラブ通いは始まったのだった。